痛みの治療を知ろう

第14話 腕や手の痛み

先日、同じような症状を訴える人が3名も来られました。「首がこって痛い、肩から腕に痛みが走るし重だるい」「最近、指先もしびれて力が入りにくい。それに、寝るときに腕や肩が痛くて、腕の置き場に困ってなかなか寝付けないし、痛くて寝返りも打てません。昼間は腕を肘掛けに乗せておいたり、三角巾で吊っていたりすると少し痛みが楽になるのですが...」

診察室で、首を前後左右に曲げたりひねったりすると痛みが強く出てきます。また、手の感覚や握力を調べると、弱くなっていることもあります。ひどい人は、電車やバスの振動でも痛みが強くなります。 首・肩・腕の痛みやしびれの原因はいくつかありますが、ここでは代表的な頸椎椎間板ヘルニアを中心に説明しましょう。

体は痛みを神経で伝え、脳で感じます。神経は電線、脳はコンピュータにたとえられるでしょうか。たとえば指先をケガすると、その痛みは指先から腕の神経を伝わって、背骨の中を通る脊髄に達します。そして、脊髄から脳へ達して、初めて私たちは痛みとして感じるのです。
もし、痛みの信号が伝わる神経の途中が圧迫されたり炎症が起きると、脳は圧迫された所が痛いと感じるのではなく、神経の出発点が痛いと感じます。たとえば手指や腕、肩から脊髄に入ってきた神経が脊髄のそばで圧迫されると、手指、腕、肩のどこでも痛くなる可能性があり、最悪の場合、すべてが痛くなります。その原因は頸椎(首の骨)の変形や、頸椎の間のクッションである椎間板の飛び出し(頸椎椎間板ヘルニア)によるものです。

軽症では首にカラー(首の支え)を巻き、無理な首の動作を避ければ日常動作は続けられます。そして時とともに痛みは自然に消えていきます。痛みが少し強い場合は鎮痛剤を服用し理学療法(首を暖めたり、引っ張る)を繰り返します。こうして痛みをしのいでいくうちに痛みは遠のいていきますが、それでも症状が治まらない場合はペインクリニックの出番です。

ペインクリニック治療の守備範囲は理学療法や薬物療法では痛みが取れないが、手術をするほどではないと言われた患者さんの痛みを緩和することです。ここは今までの医療の隙間です。治療を受けられずに痛みに耐えていた患者さんがこの隙間に大勢います。患者さんがこの隙間に落ち込まないようにするのが神経ブロックの技です。

通常ペインクリニックで行う首への治療は星状神経節ブロックという方法です。この治療で痛みが緩和されるだけでなく、神経周囲の血流を増加することにより傷んだ神経の修復を早めます。痛みは数回のブロックで緩和し、多くの場合は10回程度の治療で症状はよくなります。他の治療方法として腕神経叢ブロック、神経根ブロック、経皮的椎間板摘出術があり、症状の程度に合わせて適時用いていきます。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。

当院ではH21年より超音波エコーを用いた腕神経叢ブロックや星状神経節ブロックを行っています。これらの新しい治療方法により、腕や手の痛みの治療期間は短縮しました。