痛みの治療を知ろう

第11話 若いのに腰痛 腰椎椎間板ヘルニア

朝、洗顔しようとすると下肢に走る痛みや強い腰痛を感じる。靴下を履こうと腰を曲げると痛みが走る。痛くて歩くのも大変・・・となると、腰椎椎間板ヘルニアが考えられます。

ヘルニアとは何でしょうか。人間の背骨は脊椎が積み重なっており、その間にクッションとなる椎間板があります。椎間板は硬い繊維で包まれていますが、その弱い所が伸びたり破れると、中身の柔らかい部分(髄核)がふくらんだり外へ出てきたりします。この飛び出しを、椎間板ヘルニアと呼びます。

このヘルニアが、脊椎の後ろを通る脊髄神経を圧迫して痛みを起こすのです。年齢的には20〜40歳代の働き盛りに多く、臀部や下肢の後面、側面などの痛みが多いです。激痛で歩けないという状態から、疲れると足が少ししびれるといった程度まで、症状の幅が広いのが特徴です。

軽症であれば気にせずに働くこともできますし、湿布や鎮痛薬でしのいでいるうちに痛みやしびれは遠のいていきます。もともと、腰椎椎間板ヘルニアの多くは、時とともに自然治癒していくものです。しかし、症状が強く歩くのが大変だったり、仕事中も痛みが辛いというレベルの患者さんは、ペインクリニックや整形外科の受診をおすすめします。

ヘルニアの痛みをしのぐには神経ブロックが有効です。これは細い針を背中から入れ、脊髄近くの硬膜外腔と呼ぶ隙間や、傷んだ神経の根本に局所麻酔薬を注入する方法です。そうすると、痛みの原因である神経の炎症が抑えられ、さらに周囲の血流も増えるので治癒が早くなります。たとえヘルニアによる神経圧迫が残っていても、炎症が落ち着くと痛みは軽減していき、長期的には神経圧迫も次第に軽くなっていきます。

ですから、足の筋力低下がひどい、排尿排便の調子が悪いといった神経圧迫がかなり強い場合を除いて、手術を急ぐ必要はありません。痛みさえしのげれば、自然に症状が軽快するのを待つことができます。つまり、多くのヘルニアは自然治癒していくもので、本来、自然治癒できない症状の強いヘルニアだけを手術するべきなのです。

ペインクリニックに来院される人の多くは、安静にしていても痛みが引かず湿布や飲み薬の効果もなく、牽引やマッサージ、鍼灸を試みても痛みが取れない患者さんです。手術がすぐに必要と言われたような人は来ません。言ってみれば、手術を受けるほどでもないが一般的な保存療法(手術をしない)では軽快しなかった人たちです。

症状が急激に悪化している場合は、整形外科での手術を検討してもらいますが、当院を受診された患者さんの100人中97人は、手術を受けないでも症状は緩和しています。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。