痛みの治療を知ろう

第9話 動けない ギックリ腰

診察をしていたときのことです。患者さんの体に手を伸ばしたら、突然、右腰に嫌な感じが走りました。診察は何とか手短に済ませたものの、今度はイスから立てません。動作ひとつひとつに激痛が走るのです。まさか、この私が...。人には何度も説明し、治療をしてきたぎっくり腰です。

私の異様な動きに気づいた看護士が心配して駆け寄ってきました。その後には、いつの間にか先輩医師がニコニコして立っています。 「ぎっくり腰みたいだ」 「動けないでしょう。僕もやったことあるよ。すぐレントゲン室で腰椎椎間関節ブロックをしよう」 注射は嫌いですが仕方ありません。
レントゲン室まで助けを借りて行くと、すでに連絡を受けていたレントゲン技師達もニコニコして待っていました。すぐにレントゲン透視ベッド(レントゲンテレビを見ながら治療ができる)に乗せられて腰の消毒が始まりました。
「それでは腰椎椎間関節ブロックを始めます」 その声と同時に局所麻酔が始まり、長いブロック針が刺さってきます。「ウッ」。やはり唸ってしまいました。先輩医師は手早く治療を終えたはずですが、私にとっては長い。

「終わったよ。ベッドから降りてね」 恐る恐るベッドから降りると、痛みは半減していました。我ながらブロックの効果を実感しました。しかし、診察室に戻ると、その前には私を待っていた患者さんがずらり。そこには誰も手伝ってなどくれない、厳しい世界が残っていました。

ぎっくり腰は、重い物を持ったときや不意な動作で突然激しい腰痛が起こりますが、足まで痛くなることは少なく、痛みの多くは腰回りだけです。その仕組みはまだよく分かっていませんが、腰骨回りの関節や筋膜などの機能が一時的に破綻したために生じると考えられています。
治療は腰椎椎間関節ブロックだけでなく、外来で行える腰部硬膜外ブロックも効果があります。

当院では痛みで来院できない患者さんを自宅まで車椅子で送迎し、待たないですぐ診察治療が出来る特別予約コースを用意しています。「ぎっくり腰救急」のページをご参照ください。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。