痛みの治療を知ろう

第7話 手術後に続く痛み

手術をした後、しばらくたっても痛みがとれないという患者さんがいます。それを医者に話すと、「手術は成功したし、もう悪いところはない。傷がいえれば痛みも減りますよ」とか、「多少痛みは残ることもあるが、一年もすれば消えますよ」と言われる。しかし手術前には無かった痛みにはなかなか納得できません。これが手術に伴う手術後痛です。

よくあるケースは、乳ガンの手術(乳房摘出手術)、肺の手術(開胸手術)の後です。もちろん、体のどこの手術でも起こりえます。その原因は、大きく3つに分けられます。 ・傷が治った後にできた組織が神経を圧迫したり、手術により体の構造が変わったために、その部分を支え切れなくなり痛みが出る。まれに手術した周囲に感染による炎症が残って、痛みが続く場合があります。

体表に張り巡らされている神経が手術時に傷つくことがあり、痛くないはずの刺激でも体に痛みが走ったり、鈍痛が残ったりすることがあります。また、手術直後の鎮痛治療がしっかり行われていないと、痛みだけでなく周囲が腫れたり、栄養状態が落ちて筋肉や骨がやせたり、汗が出たりします。さらに局所が冷えたり、逆に急に熱くなったりすることもあります。
これ以外に、手術はうまくいっても「再発するのでは」「元のように生活できないのでは」といった、精神的不安が募って痛みが続いてしまうことがあります。

治療のためには、まず痛みがこれらのどれによるものかを見極めなければなりません。 乳癌のために仕方なく乳房切除や周囲のリンパ節切除を受けると、手術はうまく成功しても胸に痛みが残ったり、首・肩・腕にむくみが残ることがあります。乳房切除で、精神的にも肉体的にも苦痛を受けた上に、術後の痛みが残ることはさらに辛いものです。

これは、手術で皮膚の微少な神経が傷ついたり、皮膚の引きつれで神経が刺激を受けたり、また血液やリンパ液の流れが悪くなったためと考えられています。

その治療として、ペインクリニックでは星状神経節ブロックを試みます。ブロックにより交感神経の緊張がゆるむと、胸部や脇の下の痛みが緩和されるだけでなく、腕の血液やリンパ液の流れも良くなります。痛みの軽減が一時的な場合は、胸部交感神経ブロックを行うこともあります。痛む部位がはっきりわかるときは、その部位に分布する肋間神経のブロックや、肋間神経の根元で痛みを遮断する神経根ブロックが有効です。

同じような痛みが肺の手術後にも起きることがあります。肺の病気では胸を開け肋骨を切断したり、肋骨間を開いたりします。このときに胸部の神経が傷つくと痛みの原因となります。治療はまず痛みの残る開胸部位に分布する肋間神経をブロックします。 また腹部の手術を受けた後に、おなかの奥に重苦しい痛みが残ってしまう場合があります。多くの場合、手術を受けた部位と痛みの部位はほぼ同じです。しかし、残る痛みは手術前とは異なる痛みです。

手術では、治療する場所を露出するために周囲の臓器から血管や神経を剥離します。神経も多少傷がつきます。また、傷や手術部位が治っていく過程で、神経の引きつれや圧迫が生じることがあり、それが痛みの原因とも考えられます。

痛みを減らすためには、繰り返し入ってくる神経の痛み信号を遮断(ブロック)することと、痛みで緊張した交感神経を緩めることです。そのためには、痛みの位置にあった硬膜外ブロックを行います。痛みが表面に近い場合は、肋間神経ブロックも有効です。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。