痛みの治療を知ろう

第12話 長くは歩けない 腰部脊柱管狭窄症

「座っていたり寝ていれば痛くないのに、歩き始めてしばらくすると腰や下肢(太股から足先)がしびれ、痛くて立ち止まってしまいます。腰を丸めて休むと痛みが引いてまた歩けるのですが、遠くへは行けません」

中高年の人で腰痛や足の痛みを訴える人の多くはヘルニアではなく、狭窄症という病気の場合がほとんどです。「どのくらい歩くと休みたくなりますか」と聞くと、1分だったり10分だったりしますが、休み休みでなければ歩けないのが狭窄症の特徴です。原因は、脊髄が通っている背骨のトンネル(脊柱管)が加齢によって狭くなり、足や腰につながる神経が圧迫されるためです。血管も圧迫されるため神経への血液不足が起きて、神経はさらに痛みやすくなるのです。腰を曲げて休むと血液が流れやすくなるので、痛みやしびれが低下して再び歩けるというわけです。

治療は歩行障害のある人に限られ、多少痛くても30分も歩けるような人には運動をおすすめします。一方、歩行がある程度制限される人には、神経周囲の血流を良くする薬を処方します。さらに、下肢の筋力が低下してきたり、排尿や排便の調節が悪くなる場合は、整形外科での手術をおすすめします。手術では神経痛と歩行制限はかなり改善します。ただ残念なことは、手術後数年以内にまた同じ症状に陥る場合が多いことです。

腰や下肢(太股から足先)が痛んだりしびれたりする狭窄症で、手術するまでもないが歩行障害があり、生活や仕事に困っている場合は、神経ブロックを行なうのがよいと思います。実は、このような障害レベルの患者さんが患者さんの中には一番多いようです。圧迫されている神経の部位がはっきりしていれば、その神経のそばにブロック注射で局所麻酔薬を注入し、炎症を和らげるようにします。ブロックは何度か繰り返します。

それでも症状が和らがず逆に強くなる場合は、最も障害を受けている神経の根元に神経根ブロックを行います。この治療は神経に針が触れるので他の治療よりも痛みますが、多くの場合、症状は明らかに改善していきます。さらに最近は神経根ブロック時に痛みが出ない方法も工夫されています。また、しびれが強かったり、症状がなかなか改善しない場合は、腰部の血流を改善させる腰部交感神経ブロックを行いますが、この治療には入院が必要です。

症状が改善してくれば、治療間隔を延ばしていきます。4週間に延ばしても症状が安定していれば、いったん治療を終了します。そして腰痛体操をすすめ、一日2回、一回20分程度の散歩を日課に入れてもらっています。また、旅行や観劇、趣味の会への参加など、多少痛みがあっても元の生活を続けるようすすめています。

痛みやしびれは改善しても、完全に消えることは少ないです。要は、「痛みと付き合いながら、やりたい事をやる」のが、一番大切ではないでしょうか。やりたい事があるから、治療もリハビリも熱心になれるのではないかと思います。当院で治療を受けた人の中には、600mまで歩けるようになって、喜んでスイスまで旅行に行った70歳代の女性や、何とか500mほど歩けるようになって、子供の住んでいるマレーシアまで遊びに行った80歳代の男性もいます。好きなゴルフやハイキングなどに、加減しながらも参加し、楽しんでいる人が増えています。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。