痛みの治療を知ろう

第4話 いつまでも消えない帯状疱疹の痛み

背中が痛くて整形外科で湿布薬をもらっていたら、脇にぷつぷつと疱疹が出てきた。胸が痛いので内科で心電図を取ってもらったら、異常はなかったのに数日後に疱疹が出てきた。腰が痛いのでリハビリを受けていたら、疱疹が出てきた。多くの場合、痛みが出てきてから皮膚の変化が起きるので、診断が1週間ほど遅れることがありますが、これらは間違いなく帯状疱疹の症状です。

帯状疱疹は、体の一部の左右片側に帯状に出るウイルスによる疱疹です。顔面や胸部に出ることが多いのですが、頭の上からお尻や足先にも出ることがあります。出るのは決まって体力が落ちているときです。疱疹が体を巻くようにできることから「胴巻き」と呼ぶ地方があり、「胴巻きが体を一周したら死ぬ」という言い伝えまであります。これは嘘ですが、昔は本当だったかもしれません。というのも、免疫機能が極端に落ちた人は、胴巻きが一周することもあるからです。

帯状疱疹は、子供の頃にかかった水疱瘡と同じウイルスが神経の奥(神経節)に潜み、体の抵抗力が落ちた頃を見計らって大暴れし、皮膚に達して疱疹となります。皮膚の病気でありながら神経の病気となり神経痛が生じますが、皮膚も神経も元は同じ由来の組織ですから、ウイルスにとっては同じ相手なのです。

帯状疱疹になったら早めに病院に行き、帯状疱疹をたたく抗ウイルス薬を投与します。症状が起きてから1週間以内にこの薬を投与することが、最大のポイントです。変化した皮膚は時間とともに必ず良くなっていきますが、大変なのは後に残された痛みです。痛みが強い帯状疱疹では発症してから2〜3か月、できれば1か月以内であれば神経ブロックを繰り返して、痛みのないもしくは軽くなる状態を作り続けると、多くの場合、痛みは引いていきます。

しかし、ひとたび帯状疱疹のウイルスが大暴れして神経を傷つけ、過敏にしてしまうともう元には戻らず、痛みはなかなか引いてくれません。この状態を「帯状疱疹後神経痛」と呼んでいます。こうなると神経ブロックを行っても効果は少なく、一時的なものとなってしまいます。 治療は神経を修復するというより、痛みを紛らわすことに傾いていき、三環系抗うつ薬や安定剤の投与を行います。侵された神経の部位によっては、その神経を電気的に凝固させて神経伝達を止めたり、痛みの範囲をカバーする交感神経をブロックすることで痛みを低下させたり、その痛みの性質を鈍くさせることができる場合もあります。また唐辛子から抽出したカプサイシン軟膏や局所麻酔薬であるリドカイン軟膏で効果がある場合もあります。

最近は痛み治療への理解が進み、多くの医師が痛みの強い帯状疱疹はすぐに神経ブロックができる施設を紹介するようになりました。しかし、帯状疱疹で怖いのは皮膚の症状ではなく、「残された痛み」であることをぜひ記憶しておいてください。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。

H22年より帯状疱疹後神経痛の為に新薬が出ました。当院で使用してみたら今まで痛みが残っていた患者の60-70%の人に効果がありました。痛みが長く残っている人には朗報です。